『TPPはデフレ対策に逆行』
このブログでも、以前からTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)を取り上げていますが、私の頭ではまとめ切れませんでした。 管直人首相はTPPに日本も参加し、幕末、戦後に続く「第三の開国」とすることに意欲を示しています。 永田町では、管政権が「TPP解散」をもくろんでいるという噂もあるそうです。
今日はこれは

京都大助教・元経済産業省課長補佐 中野剛志氏
『TPPへの参加など論外です。 今でも日本の平均関税率は欧米よりも韓国よりも低い。 日本はすでに十分、開国しています。 そもそも「海外に打って出れば、日本製品の競争力が高まる」というのは、考え方が古い。 「安ければいい」という途上国市場でいくら製品を売っても、開発力はつきません。 日本製品に競争力があったのは、消費者の要求水準が極めて高い国内市場で鍛えられたからです。 「神様」までいるトイレで、便座がお尻を洗ってくれることを求めるうるさい消費者を相手にしてきたから、日本企業は強くなった。 ところがデフレが進み、安さばかりが求められるようになって、国内の「目利き」の消費者が減ってしまった。 企業は研究開発を怠るようになり、「iPad」のような魅力的な商品を作れなくなった。 輸出といっても、一体どの国に売るのか。米国は失業率10%という大不況。 中国の景気は明らかにバブルで、頼るのは危険です。 他のアジア諸国は外需依存で国内市場が小さすぎる。 そんな中で、輸出を増やすには、製品価格を下げるため、さらに賃金を下げなくてはいけない。 それで輸出が増えても、今度は貿易黒字で円高になる。 輸出主導で経済成長という道に未来はなく、国民を苦しませるだけです。日本は2002年から06年にかけて輸出主導で景気が回復しましたが、それは米国の住宅バブルのおかげ。しかも1人あたり給料は下がりました。 利益は株主と企業に回り、一般国民にはまさに「実感なき景気回復」でした。欧米でも同じ現象が起きています。 「自由貿易が経済を成長させる」という教条主義にとらわれるのはやめて、現実をみて欲しいのです。 日本は10年以上、デフレに悩んできました。 そこからの脱却が最優先課題です。 私がTPPに反対する最大の理由は、いま以上に貿易自由化を進め関税を引き下げると、外国の安い製品が入り、デフレがさらに進んでしまうからです。 農業が打撃を受けるからだけではありません。 TPP交渉に参加する9ヶ国と日本の国内総生産(GDP)を合計すると、日米両国で9割を占めます。 TPPは実質的に日米自由貿易協定です。 米国は輸出拡大を目指してドル安を誘導しているのに加え、米国自身もデフレに落ち込みそうです。 そんな国との貿易をさらに自由化すれば、デフレの日本がさらにデフレを輸入するようなものです。』
出典:朝日新聞2011年1月18日「争論 第三の開国」
主題としているのは、TPPへの参加がデフレ期に実施する政策かどうかです。 中野氏は明確に反対表明しています。
日本は2002年から06年にかけて輸出主導で景気が回復しましたが、それは米国の住宅バブルのおかげでした。 当時は世界的な需要拡大局面だったのです。 その時期に、日本は”政府の誤った政策”により国内需要は伸びませんでした。
日本でグローバル市場に対応している企業の生産性が高いのは当たり前です。 国内市場を相手にするよりも、海外市場を相手にしたほうが、それは収益性が高まるでしょう。 少なくとも2002年以降の「グローバリズム」は、「アメリカの家計が負債を年間百兆円単位で増やす」ことが前提で成り立っていました。 しかし、今後は負債を増やし、投資や消費に回してくれる別の需要が登場しない限り、少なくとも02年から06年の状況は戻ってきません。
先に”政府の誤った政策”と書きましたが、そもそも日本は02年の不況期に「デフレ期にインフレ対策を実施する」愚行を改め、国内需要の拡大に舵を切らなければならなかったのです。 ところが、アメリカの不動産バブルを前提とした「グローバル市場の拡大」という「特需」を受け、そこそこの成長率を取り戻してしまう。 結果的に、日本の舵を切るタイミングは、失われてしまいました。 さらに、リーマンショック直後に成立した麻生政権は、まさしくこの「舵を切る」にチャレンジしたわけですが、結果的にどのようになったかはご存知の通りです。
「TPPはインフレ対策です。デフレ期にはデフレ対策が必要です」
これが中野氏のTPP参加反対意見です。
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環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)について http://kasamatsu.sblo.jp/article/41964603.html