医師法21条の矛盾 <その3> そもそも異状死とは?
医師法第21条の条文は以下のとおりです。 『医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届けなければならない』。 これが異状死を届けなさいと言う条文ですが、この“異状死”という用語の定義が曖昧で、届出側の主観で判断されることが多々あります。 実際、異状死の定義は外科学会と法医学会でその解釈が異なり、現場で混乱が起きているのが現状です。
そもそも異状死とは何か?をこの項では書いてみます。
まず、外科学会、法医学会、両者の主張を示します。
T、外科学会
異状死とは犯罪性があると推測されるもの。医療行為の後の死亡は犯罪性は疑われない。よって疾患が原因での死は警察への届けは必要ない。医療過誤か否かはその後専門的な検討を行って初めて明らかになるものであって死亡した時点での警察への届け出の対象とはならない。疾患の治療として行われた行為による死は異状死の定義に入らない。
U、法医学会
法医学会が提唱した異状死の定義
【1】外因による死亡(診療の有無,診療の期間を問わない)
(1)不慮の事故
A.交通事故
運転者,同乗者,歩行者を問わず,交通機関(自動車のみならず自転車,鉄道,船舶などあらゆる種類のものを含む)による事故に起因した死亡.自過失,単独事故など,事故の態様を問わない.
B.転倒,転落
同一平面上での転倒,階段・ステップ・建物からの転落などに起因した死亡.
C.溺水
海洋,河川,湖沼,池,プール,浴槽,水たまりなど,溺水の場所は問わない.
D.火災・火焔などによる障害
火災による死亡(火傷・一酸化炭素中毒・気道熱傷あるいはこれらの競合など,死亡が火災に起因したものすべて),火陥・高熱物質との接触による火傷・熱傷などによる死亡.
E.窒息
頸部や胸部の圧迫,気道閉塞,気道内異物,酸素の欠乏などによる窒息死.
F.中毒
毒物,薬物などの服用,注射,接触などに起因した死亡.
G.異常環境
異常な温度環境への曝露(熱射病,凍死).日射病,潜函病など.
H.感電・落雷
作業中の感電死,漏電による感電死,落雷による死亡など.
I.その他の災害
上記に分類されない不慮の事故によるすべての外因死.
(2)自殺
死亡者自身の意志と行為にもとづく死亡.
縊頸、高所からの飛降,電車への飛込,刃器・鈍器による自傷,入水,服毒など.
自殺の手段方法を問わない.
(3)他殺
加害者に殺意があったか否かにかかわらず,他人によって加えられた傷害に起因する死亡すべてを含む.絞・扼頸、鼻口部の閉塞,刃器・鈍器による傷害,放火による焼死,毒殺など.加害の手段方法を問わない.
4)不慮の事故,自殺,他殺のいずれであるか死亡に至った原因が不詳の外因死
手段方法を問わない.
【2】外因による傷害の続発症、あるいは後遺障害による死亡
例)頭部外傷や眠剤中毒などに続発した気管支肺炎
バラコート中毒に続発した間質性肺炎・肺線維症
外傷,中毒、熱傷に続発した敗血症・急性腎不全・多臓器不全
破傷風、骨折に伴う脂肪塞栓症など
【3】上記【1】または【2】の疑いがあるもの
外因と死亡との間に少しでも因果関係の疑いのあるもの.
外因と死亡との因果関係が明らかでないもの.
【4】診療行為に関連した予期しない死亡、およびその疑いがあるもの
(1)注射・麻酔・手術・検査・分娩などあらゆる診療行為中,または診療行為の比較的直後における予期しない死亡.
(2)診療行為自体が関与している可能性のある死亡.
(3)診療行為中または比較的直後の急死で,死因が不明の場合.
(4)診療行為の過誤や過失の有無を問わない.
【5】死因が明らかでない死亡
(1)死体として発見された場合.
(2)一見健康に生活していたひとの予期しない急死.
(3)初診患者が,受診後ごく短時間で死因となる傷病が診断できないまま死亡した場合.
(4)医療機関への受診歴があっても,その疾病により死亡したとは診断できない場合.
(5)その他、死因が不明な場合.
このように、異状死の解釈は法医学会、外科学会等でその解釈がまちまちです。 これをいかに客観的に扱うことが出来るかが課題となってきます。 明確な定義がないため実際にはしばしば異状死の届け出について混乱が生じているのが現状です。
大野事件のような妊産婦死亡はどうすればいいでしょう。 外科学会の定義で行くと、妊婦の死亡は医学的説明が付けば届け出の必要はない。 もし犯罪性が疑われれば届ける。そうでなければ届けなくてよい。 対して法医学会の定義では、“注射・麻酔・手術・検査・分娩などあらゆる診療行為中,または診療行為の比較的直後における予期しない死亡”と明記されていますから分娩中、分娩直後に死亡したのは異状死の定義に入ります。 法医学会は妊婦死亡は全例届けろ。 外科学会は病死ということがはっきりしている場合は届ける必要はない。と言っています。 さてどうしましょう。 ここでどちらが正しいか議論するつもりはありません。 しかし、実際の問題として妊婦の死亡を24時間以内に届けなかったとして捜査、逮捕、拘留という事件が起こっているのが今の医学現場での大問題なのです。
医師法21条の矛盾 <その2>http://kasamatsu.sblo.jp/article/61610828.html
医師法21条が、現代医療を規定するルールとして機能していない。
医師法21条の矛盾 <その1>http://kasamatsu.sblo.jp/article/61507398.html
古き法律『医師法21条』の歴史と、時代に変化に対する矛盾。
2013年01月26日
医師法21条の矛盾 <その3> そもそも異状死とは?
posted by かさまつまさのり at 10:00| 日記
2013年01月21日
『軽減税率』その2〜控除対象外消費税〜
『軽減税率』その2〜控除対象外消費税〜
昨日は、『軽減税率』その1 を書きましたが、医療現場でも大変な問題が起こっています。 『控除対象外消費税』です。
医療機関が購入する機械や薬には消費税がかかります。 しかし、保険診療は非課税なので、医療機関が患者から受け取る料金には消費税を上乗せすることができません。 そのままだとこの差額分が病院の負担(損税)となってしまうのです。 最終消費者ではないにも関わらずです。
厚生労働省は診療報酬にその分を上乗せしていると説明しています。 つまり、病院が仕入れに払った消費税に相当する金額を、診療報酬に盛り込んで病院の負担分と相殺できるようになっていると説明します。 診療報酬は数千項目もありますが、消費税分が上乗せされているとされる<厚生省が説明する>項目は、注射、検体検査、血液検査、義歯など、比較的仕入れとの対応がはっきりしている項目や疾患療養指導料、皮膚科特定疾患指導料などわずか数十項目。 これらの診療報酬に上乗せされている金額が、医療機関が負担している消費税総額と同額だとはとても考えにくい。
そもそも、窓口負担は最大でも3割なので、診療報酬に上乗せされた金額を全て患者が負担するわけではありません。 また、消費税分を診療報酬に上乗せしているというならば、医療費を非課税にした意味が薄れています。
現在非課税の医療費にも消費税を課税して、その税率を0%にすればこうした問題も解決できるのではないでしょうか<ゼロ税率>。 医療費の消費税をゼロ税率課税すると、医療機関の売上にかかる消費税は0%ですが、仕入れにかかる消費税額が仕入れ税額控除の対象になり、仕入れにかかった消費税額が税務署から還付されます。 現在は、非課税なので仕入れ税額控除の対象になりません。 そうなれば、患者が支払う薬代や診療報酬に消費税相当分が上乗せされることもなくなるのです。
これから、消費税が8%、10%となれば、医療機関の利益はこの損税に消えていく運命にあります。早急に対策をとらないと、地域医療はさらなる崩壊へとつながっていきます。
詳しくお知りになりたい方は、愛知県医師会理事加藤雅通先生がまとめた
「社会保険診療の損税について」〜控除対象外消費税〜
http://kasamatsu.sakura.ne.jp/166.pdf
を参照ください。
昨日は、『軽減税率』その1 を書きましたが、医療現場でも大変な問題が起こっています。 『控除対象外消費税』です。
医療機関が購入する機械や薬には消費税がかかります。 しかし、保険診療は非課税なので、医療機関が患者から受け取る料金には消費税を上乗せすることができません。 そのままだとこの差額分が病院の負担(損税)となってしまうのです。 最終消費者ではないにも関わらずです。
厚生労働省は診療報酬にその分を上乗せしていると説明しています。 つまり、病院が仕入れに払った消費税に相当する金額を、診療報酬に盛り込んで病院の負担分と相殺できるようになっていると説明します。 診療報酬は数千項目もありますが、消費税分が上乗せされているとされる<厚生省が説明する>項目は、注射、検体検査、血液検査、義歯など、比較的仕入れとの対応がはっきりしている項目や疾患療養指導料、皮膚科特定疾患指導料などわずか数十項目。 これらの診療報酬に上乗せされている金額が、医療機関が負担している消費税総額と同額だとはとても考えにくい。
そもそも、窓口負担は最大でも3割なので、診療報酬に上乗せされた金額を全て患者が負担するわけではありません。 また、消費税分を診療報酬に上乗せしているというならば、医療費を非課税にした意味が薄れています。
現在非課税の医療費にも消費税を課税して、その税率を0%にすればこうした問題も解決できるのではないでしょうか<ゼロ税率>。 医療費の消費税をゼロ税率課税すると、医療機関の売上にかかる消費税は0%ですが、仕入れにかかる消費税額が仕入れ税額控除の対象になり、仕入れにかかった消費税額が税務署から還付されます。 現在は、非課税なので仕入れ税額控除の対象になりません。 そうなれば、患者が支払う薬代や診療報酬に消費税相当分が上乗せされることもなくなるのです。
これから、消費税が8%、10%となれば、医療機関の利益はこの損税に消えていく運命にあります。早急に対策をとらないと、地域医療はさらなる崩壊へとつながっていきます。
詳しくお知りになりたい方は、愛知県医師会理事加藤雅通先生がまとめた

「社会保険診療の損税について」〜控除対象外消費税〜
http://kasamatsu.sakura.ne.jp/166.pdf
を参照ください。
posted by かさまつまさのり at 20:02| 日記
2013年01月20日
『軽減税率』その1
『軽減税率』その1
自公与党で軽減税率が検討されている。 特に公明党が強く主張しているようである。 『軽減税率』は消費税逆進性対策のひとつで、「生活必需品にかかる消費税負担を軽減するもの」である。 言葉で聞くと良いものに感じますが、現実に実行するとなるとさまざまな問題がでてくる。
(1)まず「なにが生活必需品か?」の定義が明確ではない。
軽減税率対象となる生活必需品の線引きをしなければならないが、これがきわめて大変であろう。 "業界の政治力の強さ"が軽減税率となるかどうかの決め手となりかねない。 消費税導入前の個別間接税時代に、政治力の違いから 「コーヒーは課税だけれどもお茶は非課税」 というどうみても不公平な状態が存在したのは記憶に新しい。
消費税導入時の趣旨は、「価値観の多様化した時代に、政府が個別にぜいたく品を決めてそれに課税するという考え方は合わないので、それに替えて価格(付加価値額)に応じて公平に税負担をしてもらう消費税にする」であったはずである。 『軽減税率』は、消費税導入時の趣旨を損ね、事実上の個別間接税の復活になりかねない。
(2)また、事業者が消費税を納めるにあたって仕入れ税額控除を行う際に、標準税率の品目と軽減税率の品目とを区別しなければならなくなりなり事務コストも増える。
(3)さらには、課税ベースが小さくなるので、消費税率を将来さらに引き上げる必要が出てくるのは確実である。 ヨーロッパで標準税率が高い一因には、軽減税率の存在もあることを忘れてはならない。 消費税1%=税収2兆5千億円の公式が崩れるのである<消費税1%が2兆円であったり、1兆5千億円であったり>。
軽減税率で税収が減っても良いというならば、むしろ軽減税率をやめて税率を一律にもっと低くすることも可能ともいえる。 財務省の試算では、食料品全体に5%の軽減税率を適用すると、消費税10%で入るはずの税収を確保しようとすれば、その他の物品の消費税率を12.5%にしなければ税収は確保できないという。 消費税を10%にして食料品だけに5%の軽減税率を適用し、その分は税収が落ち込んでもよいというならば、軽減税率をやめて一律8.3%の消費税にすれば同じ税収を確保することができる。
こうしたさまざまな問題を考えると、軽減税率は考え方としては好ましいかもしれませんが、現実には問題がきわめて大きいと考えます。 国会で慎重な議論をお願いしたい。
自公与党で軽減税率が検討されている。 特に公明党が強く主張しているようである。 『軽減税率』は消費税逆進性対策のひとつで、「生活必需品にかかる消費税負担を軽減するもの」である。 言葉で聞くと良いものに感じますが、現実に実行するとなるとさまざまな問題がでてくる。
(1)まず「なにが生活必需品か?」の定義が明確ではない。
軽減税率対象となる生活必需品の線引きをしなければならないが、これがきわめて大変であろう。 "業界の政治力の強さ"が軽減税率となるかどうかの決め手となりかねない。 消費税導入前の個別間接税時代に、政治力の違いから 「コーヒーは課税だけれどもお茶は非課税」 というどうみても不公平な状態が存在したのは記憶に新しい。
消費税導入時の趣旨は、「価値観の多様化した時代に、政府が個別にぜいたく品を決めてそれに課税するという考え方は合わないので、それに替えて価格(付加価値額)に応じて公平に税負担をしてもらう消費税にする」であったはずである。 『軽減税率』は、消費税導入時の趣旨を損ね、事実上の個別間接税の復活になりかねない。
(2)また、事業者が消費税を納めるにあたって仕入れ税額控除を行う際に、標準税率の品目と軽減税率の品目とを区別しなければならなくなりなり事務コストも増える。
(3)さらには、課税ベースが小さくなるので、消費税率を将来さらに引き上げる必要が出てくるのは確実である。 ヨーロッパで標準税率が高い一因には、軽減税率の存在もあることを忘れてはならない。 消費税1%=税収2兆5千億円の公式が崩れるのである<消費税1%が2兆円であったり、1兆5千億円であったり>。
軽減税率で税収が減っても良いというならば、むしろ軽減税率をやめて税率を一律にもっと低くすることも可能ともいえる。 財務省の試算では、食料品全体に5%の軽減税率を適用すると、消費税10%で入るはずの税収を確保しようとすれば、その他の物品の消費税率を12.5%にしなければ税収は確保できないという。 消費税を10%にして食料品だけに5%の軽減税率を適用し、その分は税収が落ち込んでもよいというならば、軽減税率をやめて一律8.3%の消費税にすれば同じ税収を確保することができる。
こうしたさまざまな問題を考えると、軽減税率は考え方としては好ましいかもしれませんが、現実には問題がきわめて大きいと考えます。 国会で慎重な議論をお願いしたい。
posted by かさまつまさのり at 12:54| 日記
2013年01月18日
医師法21条の矛盾 <その2>
医師法21条の矛盾 <その2>
医師法21条の矛盾 <その1> の続きです。 医療関係の事例との関連を述べる。
前編で記述した医師法21条も死体解剖保存法も、いま話題となっている医療関係の事例などは想定していない。 いずれも、疫病のような公衆衛生と、殺人のような犯罪を想定して設立された法律なのである。
平成6年(1994年)、臓器移植法案に関連し、異状死体からの臓器移植の可能性が議論され、日本法医学会が『異状死ガイドライン』を作成した。 このガイドラインには、「異状死の解釈もかなり広義でなければならなくなっている」として、届け出るべき異状死に「診療行為に関連した予期しない死亡、およびその疑いがあるもの」を含めると書かれている。 ここに、医師法21条を拡大解釈して医療を対象とすることが明記されたのである。
昭和24年、厚生省は ”医療は医師法21条の届け出対象ではない” という認識を示していた。 局長通知で 「死亡診断書は、診療中の患者が死亡した場合に交付されるもの」 「死体検案書は、診療中の患者以外の者が死亡した場合に、死後その死体を検案して交付されるもの」(医発385 医務局長通知)としていた。
しかし、平成12年(2000年)厚生省はこの認識を覆す指示を出した。 国立病院部政策医療課の 「リスクマネージメントマニュアル作成指針」 において、「医療過誤によって死亡又は傷害が発生した場合又はその疑いがある場合には、施設長は、速やかに所轄警察署に届出を行う。」としたのである。 この厚生省の指導は、そもそもの医師法21条の概念と、次の2点で食い違っている。 @殺人のような犯罪を前提として捜査を行う警察に、厚生労働省が所管するはずの医療の事例を届け出るよう指導したこと A医師法21条では「医師」が届け出るとされているのに、「施設長」が届け出るとしたことである。 さらには、厚生労働省は、死亡診断書記入マニュアル に、「「異状」とは、「病理学的異状」でなく、「法医学的異状」を指します。「法医学的異状」については、日本法医学会が定めている「異状死ガイドライン」等も参考にして下さい。」と記載し、一学会のガイドラインに過ぎなかったはずの法医学会ガイドラインを、厚生労働省の指導としてしまったのである。
これらを背景として、平成18年、福島県立大野病院の産婦人科医が、業務上過失致死罪及び医師法21条違反に問われ、逮捕された。 この事例では、院長「施設長」が届け出ないと判断し、産婦人科医「医師」はこれに従ったにも関わらず、産婦人科医が逮捕されたのである。
医師法21条が、現代医療を規定するルールとして機能していないことは明らかである。
医師法21条の矛盾 <その1> の続きです。 医療関係の事例との関連を述べる。
前編で記述した医師法21条も死体解剖保存法も、いま話題となっている医療関係の事例などは想定していない。 いずれも、疫病のような公衆衛生と、殺人のような犯罪を想定して設立された法律なのである。
平成6年(1994年)、臓器移植法案に関連し、異状死体からの臓器移植の可能性が議論され、日本法医学会が『異状死ガイドライン』を作成した。 このガイドラインには、「異状死の解釈もかなり広義でなければならなくなっている」として、届け出るべき異状死に「診療行為に関連した予期しない死亡、およびその疑いがあるもの」を含めると書かれている。 ここに、医師法21条を拡大解釈して医療を対象とすることが明記されたのである。
昭和24年、厚生省は ”医療は医師法21条の届け出対象ではない” という認識を示していた。 局長通知で 「死亡診断書は、診療中の患者が死亡した場合に交付されるもの」 「死体検案書は、診療中の患者以外の者が死亡した場合に、死後その死体を検案して交付されるもの」(医発385 医務局長通知)としていた。
しかし、平成12年(2000年)厚生省はこの認識を覆す指示を出した。 国立病院部政策医療課の 「リスクマネージメントマニュアル作成指針」 において、「医療過誤によって死亡又は傷害が発生した場合又はその疑いがある場合には、施設長は、速やかに所轄警察署に届出を行う。」としたのである。 この厚生省の指導は、そもそもの医師法21条の概念と、次の2点で食い違っている。 @殺人のような犯罪を前提として捜査を行う警察に、厚生労働省が所管するはずの医療の事例を届け出るよう指導したこと A医師法21条では「医師」が届け出るとされているのに、「施設長」が届け出るとしたことである。 さらには、厚生労働省は、死亡診断書記入マニュアル に、「「異状」とは、「病理学的異状」でなく、「法医学的異状」を指します。「法医学的異状」については、日本法医学会が定めている「異状死ガイドライン」等も参考にして下さい。」と記載し、一学会のガイドラインに過ぎなかったはずの法医学会ガイドラインを、厚生労働省の指導としてしまったのである。
これらを背景として、平成18年、福島県立大野病院の産婦人科医が、業務上過失致死罪及び医師法21条違反に問われ、逮捕された。 この事例では、院長「施設長」が届け出ないと判断し、産婦人科医「医師」はこれに従ったにも関わらず、産婦人科医が逮捕されたのである。
医師法21条が、現代医療を規定するルールとして機能していないことは明らかである。
posted by かさまつまさのり at 23:00| 医療
2013年01月16日
医師法21条の矛盾 <その1>
医師法21条の矛盾 <その1>
昔から矛盾を感じていた古き法律 『医師法21条』 について連載でまとめる。
医師法21条とは、「医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。」という法律である。 平成18年福島県立大野病院の産婦人科医が、『業務上過失致死罪』及び『医師法21条』違反に問われ、逮捕されたことは記憶に新しい。 その際にも医師法21条について様々な議論が起こったが、法曹界および医学会の一部を巻き込んだのみで、国民的議論には発展しなかった。
そもそもですが、医師法の起源はなんと”明治”です。
明治7年(1874年)に発布された医制(明治7年文部省達)に遡る。 当時警察は、内務省の組織であった。 内務省は、警察、衛生、労働、地方自治、土木など、幅広い分野を所管する巨大な組織であった。
当時の衛生状態を推測するに、疫病・飢饉・殺人等による死体を道ばたに見かけることもおそらく珍しくなく、死亡診断書を書く医師に、疫病・飢饉・殺人等を示唆する「異状」がある死体を見つけた場合は、内務省に届け出る義務を課した。 当時としては、当然の法律であったであろう。 また、疫病・飢饉のような公衆衛生を担う官庁と、殺人のような犯罪の捜査を担う官庁が、内務省という巨大ではあるもののひとつの組織だったため、この届け出制度についても矛盾はなかった。
しかし、昭和22年(1947年)、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の指令により内務省は解体される。 疫病・飢饉のような公衆衛生を担う厚生省と、殺人のような犯罪の捜査を担う警察が分かれてしまった。 しかし、医師法21条は改正されることはなく、異状死の届け出先は警察のままに放置された。
また、GHQはいわゆる”行政解剖制度”を作った。 「都道府県知事は、その地域内における伝染病、中毒又は災害により死亡した疑のある死体その他死因の明らかでない死体について、その死因を明らかにするため監察医を置き、(中略)解剖させることができる。」(死体解剖保存法第8条)という監察医制度である。 つまり、殺人のような犯罪の捜査のために警察が刑事訴訟法に基づいて行う司法解剖と、疫病・飢饉のような公衆衛生目的で都道府県が監察医を置いて行う解剖(いわゆる行政解剖)が、我が国では明確に分かれた。 所管官庁も、警察と厚生省に分かれており、疫病・飢饉のような公衆衛生目的で異状死体を届け出る場合も、警察へ届け出るという医師法21条そのものが、矛盾をはらむこととなったのである。 そして、今だにそれか改定されていないのである。
<その2へ続く、、、予定>

昔から矛盾を感じていた古き法律 『医師法21条』 について連載でまとめる。
医師法21条とは、「医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。」という法律である。 平成18年福島県立大野病院の産婦人科医が、『業務上過失致死罪』及び『医師法21条』違反に問われ、逮捕されたことは記憶に新しい。 その際にも医師法21条について様々な議論が起こったが、法曹界および医学会の一部を巻き込んだのみで、国民的議論には発展しなかった。
そもそもですが、医師法の起源はなんと”明治”です。

当時の衛生状態を推測するに、疫病・飢饉・殺人等による死体を道ばたに見かけることもおそらく珍しくなく、死亡診断書を書く医師に、疫病・飢饉・殺人等を示唆する「異状」がある死体を見つけた場合は、内務省に届け出る義務を課した。 当時としては、当然の法律であったであろう。 また、疫病・飢饉のような公衆衛生を担う官庁と、殺人のような犯罪の捜査を担う官庁が、内務省という巨大ではあるもののひとつの組織だったため、この届け出制度についても矛盾はなかった。
しかし、昭和22年(1947年)、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の指令により内務省は解体される。 疫病・飢饉のような公衆衛生を担う厚生省と、殺人のような犯罪の捜査を担う警察が分かれてしまった。 しかし、医師法21条は改正されることはなく、異状死の届け出先は警察のままに放置された。
また、GHQはいわゆる”行政解剖制度”を作った。 「都道府県知事は、その地域内における伝染病、中毒又は災害により死亡した疑のある死体その他死因の明らかでない死体について、その死因を明らかにするため監察医を置き、(中略)解剖させることができる。」(死体解剖保存法第8条)という監察医制度である。 つまり、殺人のような犯罪の捜査のために警察が刑事訴訟法に基づいて行う司法解剖と、疫病・飢饉のような公衆衛生目的で都道府県が監察医を置いて行う解剖(いわゆる行政解剖)が、我が国では明確に分かれた。 所管官庁も、警察と厚生省に分かれており、疫病・飢饉のような公衆衛生目的で異状死体を届け出る場合も、警察へ届け出るという医師法21条そのものが、矛盾をはらむこととなったのである。 そして、今だにそれか改定されていないのである。
<その2へ続く、、、予定>

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posted by かさまつまさのり at 19:56| 医療