2015年06月27日

HPVワクチン関連神経免疫症候群(Human Papillomavirus (HPV) Vaccination Associated with Neuro-immunopathicSyndrome :HANS)

HPVワクチン関連神経免疫症候群(Human Papillomavirus (HPV) Vaccination Associated with Neuro-immunopathicSyndrome :HANS)
一般財団法人難病治療研究振興財団 より
http://jmrf-nanbyou.org/pdf/news_vol3_1.pdf
 HANSは、一昨年末より線維筋痛症外来に若年性線維筋痛症と診断されて紹介を受け受診する少女達の一部に、HPVワクチンを接種した後に若年性線維筋痛症の症状の他にFMではみられない下垂体異常、中枢神経異常、ホルモン異常などの多彩な症状が出現している患者様がいたことから、本財団の調査研究チームが昨年6月にモスクワで開催された国際学会で提唱した全く新しい疾患概念です。
 多くの医療機関では、HPVワクチン接種後の副反応であるにも関わらず、厚生労働省が定義している接種後30日以内発症という縛りに捉われて、患者様がHPVワクチン接種との関係を訴えても時間的経過が長いということから副反応と認めず、疼痛の治療をするのみで、多彩な神経免疫症状については心因性のものであると診断をしています。これにより多くのHANS患者様が適切な治療を受けることができずにいると考え、本財団では医療相談の窓口を開設し、現在110名を超える患者様の対応をしております。しかしながら、HANSの概念を理解し、診療をすることができる医療機関、臨床医はまだわずかであり、本財団研究チームの臨床医は関東に集中しているのが現実です。今後、治療を推進していく上で全国にこの概念を拡げることが急務であり、この疾患に苦しんでいる少女達を救済するために必要不可欠であると考えております。
 厚生労働省副反応検討委員会は、海外でHANSの症状を訴える患者様はいないという見解を示していましたが、本財団の調べによりヨーロッパ諸国、アメリカ、インド、ロシアなど世界各国で同様の症状を訴える患者様がいることが明らかになってきました。昨年末、本財団が発表したHANS診断基準を知ったデンマークのコペンハーゲンにある国立Frederiksberg病院から、デンマーク国内でも同様の症状で苦しんでいる患者様が多数おり、この病院でも80名以上のHANSの患者様の治療に苦慮していることから病態解明・治療法の確立に向け、本財団と共同研究を行いたいと要請があり、昨年12月に共同研究を進めることになりました。
 またこれを受け、本年1月にデンマーク国立Frederiksberg病院から担当医が来日し、本財団の研究チームと症例の検討を行い、共通プロトコールを用いた病態調査を実施することが了承されました。現在、デンマークと日本の2国間でこの共通プロトコールによる病態調査を実施しており、順調にデータが集積され、解明が進んでいます。

HPVシンポジウムを終えての座長取りまとめ より
http://www.med.or.jp/nichinews/n270105f.html
 HPVワクチン接種後に発生した症状とワクチンとの因果関係の有無及び病態については,本日のシンポジウムでも示されたように,専門家の間でもいくつかの異なる見解がある。今後も専門家による究明の努力が重要であると考える。これらの症状を呈した被接種者に対しては,HPVワクチン接種との因果関係の有無や病態にかかわらず,その回復に向けて,日本医師会・日本医学会が行政と共に,治療・支援体制を強化することが大切である。ワクチンには接種をすることによるリスク(副反応)と,しないことによるリスク(疾病予防機会の喪失)の両面があることを踏まえ,国においては,引き続きワクチン接種のあり方について,現時点で得られている科学的根拠に基づいた検証を行い,結論を得るべく努められたい。
posted by かさまつまさのり at 10:22| 日記

2015年06月25日

「医療事故調査制度」

「医療事故調査制度」
 愛知県医師会調査室の任務で、今年10月から始まる「医療事故調査制度」について解説文を書きました。会員向けの定期会報に掲載されます。
 2年ほど前(この制度の検討が始まったころ) 日本独特な『医療事故調』 という記事を書きました。このころの懸念はいまだ払拭されていません。
 http://kasamatsu.sblo.jp/article/68592464.html
 今回の『医療事故調』が、成功するかどうかは『事故の原因究明と再発防止を主眼とし、関係者・個人の責任は問わないのは常識』という原則が守られるかどうかにかかっています。実際、法律・省令・通知の文章は曖昧です。関係弁護士が目的外使用をするなどを行えば、この制度自体が崩壊する可能性もあります。ご遺族の方々のお気持ちに寄り添い事実をしっかりご説明することが大事なのは言うまでもないことです。但し、今「医療事故調査制度」は、「再発を防止し、医療環境を良くする」ためにこれらを切り離した議論が必要なのです。希望を込めて執筆しました。

「医療事故調査制度」 愛知県調査室委員  笠松正憲
<はじめに>
 医療法の一部が改正され、今年10月に医療事故調査制度<以下、本制度>が発足することになった。本制度は「医療に関する有害事象の報告システムについてのWHOドラフトガイドライン」の「学習を目的としたシステム」に準拠した、国際的水準の制度である。
 ガイドラインの大きな特徴は「学習を目的としたシステム」と「説明責任を目的としたシステム」とを切り分けることである。すなわち本制度では医療安全増進の現実化のため、「説明責任」をはじめとする責任問題(刑事責任・民事責任・行政責任・社会的責任など)を完全に切り離す。しかし、間違ってはいけないのは本制度をもって免責とはならないことである。本制度の調査とは別に、刑事告訴がなされる場合もあることは肝に銘じる必要がある。
 マスメディアの多くや一部の事故調関係者はWHOドラフトガイドラインを理解することなく、いまだに「学習」と「説明責任」を一つの制度で実現しようとする『混合型』思考が多いのは残念である。
<医療事故調査制度と医師法第21条>
 医療事故調査制度問題は長年に渡り混乱を極めた。混乱の元凶は医師法第21条の解釈である。1994年日本法医学会が『異状死ガイドライン』を公表し、届け出るべき異状死に「診療行為に関連した予期しない死亡」を含むと記述した。医師法第21条を拡大解釈し、医療事故を対象としたのである。2006年の福島県立大野病院事件(無罪判決)では、医師法第21条による警察への届出義務違反と業務上過失致死罪容疑で医師が逮捕された。治療上における医師の判断や手術法選択にまで捜査当局が踏み込み、医療現場に大きな不安を与えた。
 「警察が医療現場に入ってこないためには何ができるか」との観点で検討されたのが、2008年の「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」である。行政庁が公的な第三者機関(医療安全調査委員会)をつくり、医療機関が機関に届け出ることをもって警察への届出を免除するというものである。しかし、政権交代とも重なり法案は廃案となってしまった。
 本制度は「大綱案」とは全く性格が異なる。まず院内調査を実施するのが特徴である。また、第三者機関(医療事故調査・支援センター)は民間組織であり、医療安全向上を目的に動き警察や裁判とは切り離された仕組みとなる。本制度は医師法第21条とは並列的な位置づけであり、現状ではそれぞれについて要件を検討し届出の必要があることには留意したい。
<医療事故調査制度の施行に係る検討会>
 本制度の詳細を決めるべく「医療事故調査制度の施行に係る検討会」で論点整理が行われた。議論は紛糾し、座長が「取りまとめ」を公表することで最終決着をみた。最も激しい対立が起こったのは「院内調査結果の遺族への説明方法」であった。報告書に再発防止策を書くかどうか、書面で渡すかどうかで対立した。「取りまとめ」では「口頭または書面、もしくはその双方の適切な方法により行う」「調査の目的・結果について、遺族が希望する方法で説明するよう努めなければならない」という玉虫色の表現で決着した。事実上、報告書を書面で渡す形が基本になると想定される。報告書の目的外使用を法では制限できないため、その取り扱いは関係弁護士の良心にゆだねられる。報告書が公表されれば、それが刑事司法捜査のきっかけとなることも危惧される。また、責任追及のリスクがあれば、医療関係者が調査で事実を証言しにくくなることもあろう。医療安全増進という本制度の真の目的が実現されるよう、運用方法についてもきめ細かな目配りが必要である。
<群馬大腹腔鏡事件に学ぶ>
 昨今、群馬大を巡る報道が過熱した。本制度施行前の事件であるが、今制度の運用に対し多くの示唆を与える事件であった。契機は「事故調査委員会」による「腹腔鏡下肝切除術事故調査報告書」の公表であり、マスメディア報道は『混合型』思考一辺倒となった。
 驚くべき稚拙な「責任追及型報告書」である。「〜の可能性があった。〜も検討すべきであった。以上のことから、過失があったと判断される」というように、極めて安易に過失を認定している。事故調査委員会が過失認定をすること、報告書を公表することなどは、「学習」を目的としたシステムではあってはならないことである。
 院内調査報告書作成の難しさも浮き彫りとなった。実際、病院側と現場医療者が共に納得する報告書の作成は簡単ではない。群馬大では、執刀医が反論の上申書を提出後に退職した。過去の事例では、県立大野病院事件(帝王切開手術後に産婦が死亡)、東京女子医大事件(2001年・心臓手術中に女児が死亡)、いずれも病院側が作った報告書が原因となり冤罪事件が起きた。医療者は裁判に巻き込まれる可能性があるにも関わらず、自分を守る術は無いに等しい。医療側弁護士とは通常病院側の弁護士を指すが、病院と現場医療者の対応方針が異なる場合は利益相反があり、医療者の人権は無視されることがほとんどである。
 また、事故調査には専門的なトレーニングが必要であるが、医療機関の医療安全管理担当者は、現状では事故調査の訓練をほとんど受けていない。結局、群馬大幹部は自身のガバナンス不足を、執刀医の首を差し出すことで決着させ、問題の本質をすり替えてしまった。
<まとめ>
 ご遺族の方々のお気持ちに寄り添い事実をしっかりご説明することが大事なのは言うまでもない。但し、今制度は「再発を防止し、医療環境を良くする」ためにこれらを切り離した議論が必要である。
 「事故調査を実施すれば、必ず原因が分かり、再発防止策も講じることができる」と考える患者・遺族は多く、調査には限界があることを理解してもらう取り組みも、各医療機関だけではなく、行政をはじめ関係団体に求められているのではないだろうか。
 制度施行まであと数か月。センターの選定、院内事故調査の支援団体の選定など、残された課題は山積みである。省令・通知では具体的な院内調査手法は示されず、各病院団体が作るガイドラインやマニュアルに委ねられるという。5月末には、日本医療法人協会が「医療事故調運用ガイドライン最終報告書」を公表した。適切な運用ガイドラインの作成も本制度が成功するポイントである。現場を混乱させずに着実な一歩を踏み出すべく、手堅い施行・運用を望みたい。

           
posted by かさまつまさのり at 19:34| 医療