2013年02月07日

産科医療補償制度

産科医療補償制度
 2009年1月1日以降の出産に対して 「産科医療補償制度」 がスタートしました。 生まれた赤ちゃんが重症の脳性麻痺となった場合、看護・介護に必要な補償金が支給され、第三者で組織した調査機関で 「なぜそうなったか」 を分析してもらえる制度です。
 今までは、不幸にも脳性麻痺が残った場合 「なぜ、こういうことになったか知りたい」 と原因究明を願えば、医療訴訟を起こすしかなかったのです。 裁判を起こしても、敗訴すれば補償金がもらえませんでした。 さらに言えば、裁判ではお互い 「負けまい」 として自分たちに不利なことは言わないので、なかなか真実が出てきません。 結局 「再発防止のためにどうしたらいいか」 という次のステップにつながりませんでした。 今回の制度では、加入施設で出産し補償の対象となれば訴訟手続き無しで自動的に補償金が給付され、原因分析も受けられるようになりました。

 費用の話もしておきましょう。 産科医療補償制度開始に合わせ、出産施設のほとんどが分娩料を3万円値上げしました。 施設は、妊婦ひとりにつき3万円の保険料を払うことになったからです。 妊婦が保険料を負担しているかのようですが、その費用は、最終的には妊婦の入っている保険が負担します。 出産育児一時金が3万円多く支払われるのです。 妊婦の負担額はゼロにということになります。 現在、多額の余剰金が積み上げられ、脳性麻痺を対象とした医療補償制度には3万円も必要ないこともわかっています。

 さて、医療サイドは ”訴訟が激減する” を期待しています。 しかし、紛争の終点となる確約はありません。 アメリカでは無過失補償を貰えば訴訟はできませんし、訴訟をするなら無過失補償は貰えません。 もちろんこの選択は自由である。 ニュージーランドでは、医療過誤は法律で決まった額の補償を受け、訴訟は出来ない。 日本においてニュージーランド形式を採用するのは法的に無理があるという。 アメリカ形式は日本の現行法で可能であるという。 しかし、本制度の設計段階で、日本の法律家が補償金を貰うかわりに裁判を受けさせないというのは訟権の侵害にあたるという解釈をしため、今回の産科医療補償制度では補償金を貰え、克つ訟権を残すという形式になってしまった。 アメリカ形式を採用しなくてはこの制度の本来の意味を成さない。
 調査委員会の医学的判定が医師の過失無しの場合なら、補償金は貰い、あえて訴訟はおこさないだろう。 調査委員会の判定が過失あり、又は過失の可能性も考えられるとの判定を下したとき、補償金を受けた後でもその調査結果が紛争を誘発する可能性が出てくる。 これが証拠をして採用されるとき、医師は極めて不利な立場に立たされることとなる。

 産科医療補償制度が、医療訴訟も医療事故も減らすための保険となれればよいのですが。
posted by かさまつまさのり at 00:06| 医療

2013年02月05日

「大野病院事件」

「大野病院事件」
 先日このブログで、医師法第21条の条文において“異状死”という用語の定義が曖昧であることを書きました。
 医師法21条の矛盾 <その3> そもそも異状死とは?
 http://kasamatsu.sblo.jp/article/61957560.html
 異状死の定義が外科学会と法医学会で異なり、医療現場で混乱が起きているのです。 この“異状死”の解釈が問題で、「大野病院事件」が起こりました。 医師が捜査、逮捕、拘留された事件です。 しかしながら「大野病院事件」って何? という意見も多かったので、あらためてこの事件をまとめ、私が感じるいくつかの問題点を挙げてみたいと思います。
 福島県立大野病院産科医逮捕事件<通称「大野病院事件」>は、2004年12月17日に福島県双葉郡大熊町の福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた産婦が死亡した案件につき、手術を執刀した産婦人科の医師が業務上過失致死と医師法違反の容疑で2006年に逮捕、翌月に起訴された事件です。 結果は、2008年福島地方裁判所が被告医師を無罪とする判決を言い渡し、検察側が控訴を断念し、無罪が確定しました。

<手術経過>2004年12月17日
午後2時02分に麻酔を開始し、帝王切開手術を開始した。
体重3000gの女児を正常に娩出。その後胎盤剥離にうつった。
午後2時50分、胎盤娩出するも、胎盤娩出後も出血が継続。
午後4時35分、子宮摘出に移行し、午後5時30分に完了。
午後7時01分、妊婦死亡を確認。

<手術後の処理>
産婦死亡につき、医師は院長に報告し、医療準則に反する行為はなく通常の病死であり、異状死には当てはまらないと判断して警察署への24時間以内の届け出は行わなかった。

<医療事故調査委員会>
福島県が事故調査委員会を設置した。報告書は2005年3月に作成され、県に提出された。 この報告書は死亡原因に執刀医の判断ミスを認め、@胎盤が子宮の筋肉に付着していることに気付かなかった、A通常使わないはさみを使って切り離した、B大量の出血が続いたのに院内の他の医師に応援を頼まなかったこと、を指摘している。(実際は、県は医療側に過失ありとした上で、医賠責保険で保険会社から遺族への補償支払をスムーズにしようとしたと思われる)

<逮捕と起訴>
前述の医療事故調査委員会報告書がきっかけとなり、メディアで医療ミスと報じられ、警察が捜査に動くことになった。 2006年2月、福島県警は手術を執刀した医師を業務上過失致死と医師法に定める異状死の届出義務違反の疑いで逮捕。 福島地方裁判所に起訴された(3月14日に保釈)。

<裁判>
2008年6月、福島地方裁判所(鈴木信行裁判長)は被告人の医師に無罪判決を言い渡した。福島地方検察庁は控訴を断念し、地裁判決が確定した。
(判決内容 医師法違反部分)
1.医師法21条にいう異状とは、法医学的にみて普通と異なる状態で死亡していると認められる状態であることを意味する。 よって、診療中の患者が診療を受けている当該疾病によって死亡したような場合は、そもそも同条にいう異状の要件を欠く。
2.本件では、前置胎盤という疾病を持つ患者として手術に入り、その手術中に癒着胎盤という疾病が新たに見つかり、それに対する過失のない医療行為を講じたものの、出血性ショックとなり、失血死に至った。 つまり、手術中に見つかった当該疾病を原因とする、過失無き医療行為をもってしても避けられなかった結果であるので、同法における異状に該当するとは認められない。 よって医師法21条違反の罪は成立しない。(事実上、外科学会の異状死定義を取り入れた判決であった。)

<私が考える問題点>
(1)医賠責保険
 当初、医療事故調査委員会は医師の過失を認める報告書を作成し、これが警察の捜査や起訴を招くことになった。 医師の過失を認める報告書を書いたのは、前述のように福島県が遺族への補償支払をスムーズにするためであった。 医賠責保険で保険会社から金を引き出すには、医師の過失が必要だったためという。 この事件をきっかけに、医療においては過失の有無を問わない無過失補償制度が議論されるようになった。 一部ではあるが、2009年に産科無過失補償制度が実現した。 <この産科無過失補償制度についてもいずれこのブログで触れたい>。
(2)医療行為を業務上過失致死罪に問うことの問題
 結果の完全な予測が不可能な医療行為に対して、「結果が予見出来たにもかかわらずそれを回避しなかったこと」を罪とする業務上過失致死罪の適用はナンセンスであると考えます。 これがまかり通るとなれば、出産を始めとしたリスクを伴う医療行為を引き受ける医師は存在しなくなる。 そもそも、医療過誤としての過失を認定することが難しいであろう今回の事例に対して『医師の逮捕』まで行われたことは、臨床医に大きな脅威を与えた。 治療における医師の判断、手術法の選択にまで捜査当局が踏み込んだまさに『事件』である。
(3)異状死の定義
外科学会と法医学会で異なり、医療現場で混乱が起きている。

 当時、産経新聞は「大野病院事件はカルテの改竄や技量もないのに高度な医療を施した医療過誤事件とは違った。それでも警察の捜査は医師の裁量にまで踏み込んで過失責任の罪を問うた」と警察と検察を直接的に批判した。 同感である。 この事件は、特に昼夜を問わず地域医療に貢献していた医師の意欲を低下させ、またリスクに対しての萎縮を招いたと感じます。
posted by かさまつまさのり at 22:50| 医療

2013年02月03日

『医師法20条の誤解』

『医師法20条の誤解』

 在宅看取り現場で高齢者が自宅で亡くなった時、死因が老衰や病気であってもパトカーが来るという困った事態が実際に多発しています。 医師が、がん末期の在宅患者の訪問診療へ正午に出かけました。 その患者が翌日午後2時頃亡くなりました。 死因は誰が見ても明らかなようにがんで何の不審な点もありませんが、訪問に来て気づいたヘルパーが、警察を呼んだため、犯罪を前提とした取り調べが始まってしまったという例です。 警察は医療については基本的に何も分かりませんから、呼ばれたら取り調べするしかありません。 犯罪など起こっていないのに、まったく不思議な話です。 しかし現実には全国でこのような現象が頻発しているのが現状です。

 原因は、医師法20条の「24時間」という言葉の誤解釈です。
(医師法20条)
医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。 但し、診療中の患者が受診後24時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。

 「死亡診断書や死体検案書は、医師が自分の目で見て診断・検案した上でなければ発行できません。 死亡診断書の場合、医師は患者が死亡する場面に常に立ち会えるわけではないので、その場にいなくても24時間以内に診察していれば、死亡診断書を発行できます。 最後の診察から24時間以上経過していても、死亡後に診察を行い死亡確認したら、死亡診断書を書けます」という意味です。 文章としては何も問題はありません。

 ところが、これを「24時間以内に診察していなければ死亡診断書を発行できない」と誤解する人が続出しているのです。 さらには警察に届けるのはなぜでしょう。 条文のどこにも警察なんて書いてありませんが。

 問題は医師法21条です。
(医師法21条)
医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。

「医師は異状死を見たら24時間以内に警察に届けなければならない」というものです。

 近年、医療事故や医療訴訟などが取り沙汰された時期から、この医師法21条が医療者の間で有名になり過ぎたのです。 このブログでも、異状死の解釈で度々言及する法律です。 この法律が有名になりすぎました。 「24時間」という同じ言葉があるものだから、医師法20条該当例まで警察に届けなければならないというように間違って読まれてしまったわけです。 結果的に、「人が家で死んだら警察を呼ばないといけない」という誤解が広がりました。 困ったことに医師だけでなく、看護師や介護職など、看取りの現場にいるスタッフ、さらに一般の人たちにまで伝わっている場合があります。

 厚生労働省から昨年8月、実に63年ぶりとなる医師法20条の解釈通知が出ました。しかし、残念ながら浸透は遅いようです。
posted by かさまつまさのり at 09:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 医療

2013年02月02日

「先天性風疹症候群」と「ワクチン行政の不備」

「先天性風疹症候群」と「ワクチン行政の不備」
 困ったことがおこっています。 風疹が去年の春以降大流行し、去年1年間の患者数は過去5年間で最も多くなっているのです。 ことしに入ってからも流行は収まらず、先月20日までのデータでも去年と比べ9倍という。
 風疹流行で心配なのは 「先天性風疹症候群」 の発症。 妊娠初期の女性が感染すると、生まれてくる赤ちゃんが心臓や耳、目などに障害が出る 「先天性風疹症候群」 になるおそれがあります。 国立感染症研究所によれば、去年10月から先月にかけて大阪、兵庫、埼玉、香川で生まれた合わせて6人の赤ちゃんが 「先天性風疹症候群」 と診断されたということです。
 何とか力ずくでも防がなければなりませんパンチ

 風疹の抗体が十分にない妊婦がいれば、夫を含め家族にも予防接種を受けてもらう必要があります。 風疹患者の8割近くが男性です。 妊婦が夫から感染するケースを防ぐ必要があります。

 なぜ、このような奇妙なことことがおこっているのかexclamation&question
 それは、20代から40代の男性は子どもの頃に風疹の予防接種を受けていないためです。

 日本の風疹ワクチンは1977年から、女子中学生を対象に始まりました。 その後、何度か制度が変わり現在は、一歳と小学校入学前一年の計二回、麻疹と風疹を防ぐMRワクチンを接種しています。
 今年の風疹報告をみると、患者453人のうち350人が男性。 うち20代と30代が6割を占め、女子中学生だけが接種対象だったり、接種率が低かったりした世代と重なります。<実際に、20代後半の男性の10人に一人、30〜50代前半の男性の4人に1人は、風疹への免疫がない。女性も、接種の機会が一回しかなかった20代以上で、免疫のない人が5%ほどいるという。>

 ワクチンは複数回、接種しても大丈夫なので、流行している今年は、妊娠する可能性がある人やその夫などは、免疫(抗体)の有無を検査する手間を省き、接種してもいいと考えられます。ただし女性はワクチン後二カ月間、避妊する必要があります。

 さらに、この問題の奥が深いのは、無料で受けられる接種期間中に、受けていない子が多数いること。 最も接種率が高い1歳児でも、08〜10年度に未接種だった子は全国で計18万人に上るという。 高校三年相当年齢では81万人とも言われます。

 これまで、ワクチンについていろいろ書いてきました(下記参照)。
 ワクチンの話B 必要なワクチンがなぜ任意接種?
  http://kasamatsu.sblo.jp/article/42711098.html
 ワクチンの話A 任意接種は「受けなくていいもの」でしょうか?
  http://kasamatsu.sblo.jp/article/42686373.html
 ワクチンの話@ 予防接種法の法定接種は国民に接種義務はない!
  http://kasamatsu.sblo.jp/article/42644933.html
 
 1948年に予防接種法が制定された当時は、罰則付きの義務接種でした。 刑事罰ですから、要件を満たせば逮捕もできたわけです。 しかしその後、ワクチン接種後の有害事象が、ワクチンによる副作用だと思われ(実はワクチンが原因ではなかったものがたくさんあります)訴訟などの紛争を繰り返してきました。 国家賠償訴訟で国の責任や財政負担を認められることを恐れた国は、国の関与の度合いを減らす政策を考えました。  まず1976年に罰則を廃止。 1994年には義務接種を廃止し、接種対象者の努力規定とそれに対応した市町村等の行政による積極的な勧奨となりました。現在の予防接種法では 「受けるよう努めなければならない」 という努力義務となっています。 国民側から見れば、ワクチンを受けることを強制されないのですから、個々人の判断で決める点では、任意接種とまったく同じとなったわけです。

 このような予防接種法も見直す必要がありそうです。 社会全体のために!
           
posted by かさまつまさのり at 17:43| 医療

2013年01月26日

医師法21条の矛盾 <その3> そもそも異状死とは?

医師法21条の矛盾 <その3> そもそも異状死とは?

 医師法第21条の条文は以下のとおりです。 『医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届けなければならない』。 これが異状死を届けなさいと言う条文ですが、この“異状死”という用語の定義が曖昧で、届出側の主観で判断されることが多々あります。 実際、異状死の定義は外科学会と法医学会でその解釈が異なり、現場で混乱が起きているのが現状です。
そもそも異状死とは何か?をこの項では書いてみます。

まず、外科学会、法医学会、両者の主張を示します。

T、外科学会
異状死とは犯罪性があると推測されるもの。医療行為の後の死亡は犯罪性は疑われない。よって疾患が原因での死は警察への届けは必要ない。医療過誤か否かはその後専門的な検討を行って初めて明らかになるものであって死亡した時点での警察への届け出の対象とはならない。疾患の治療として行われた行為による死は異状死の定義に入らない。


U、法医学会
 法医学会が提唱した異状死の定義
【1】外因による死亡(診療の有無,診療の期間を問わない)
(1)不慮の事故
A.交通事故
運転者,同乗者,歩行者を問わず,交通機関(自動車のみならず自転車,鉄道,船舶などあらゆる種類のものを含む)による事故に起因した死亡.自過失,単独事故など,事故の態様を問わない.
B.転倒,転落
同一平面上での転倒,階段・ステップ・建物からの転落などに起因した死亡.
C.溺水
海洋,河川,湖沼,池,プール,浴槽,水たまりなど,溺水の場所は問わない.
D.火災・火焔などによる障害
火災による死亡(火傷・一酸化炭素中毒・気道熱傷あるいはこれらの競合など,死亡が火災に起因したものすべて),火陥・高熱物質との接触による火傷・熱傷などによる死亡.
E.窒息
頸部や胸部の圧迫,気道閉塞,気道内異物,酸素の欠乏などによる窒息死.
F.中毒
毒物,薬物などの服用,注射,接触などに起因した死亡.
G.異常環境
異常な温度環境への曝露(熱射病,凍死).日射病,潜函病など.
H.感電・落雷
作業中の感電死,漏電による感電死,落雷による死亡など.
I.その他の災害
上記に分類されない不慮の事故によるすべての外因死.
(2)自殺
死亡者自身の意志と行為にもとづく死亡.
縊頸、高所からの飛降,電車への飛込,刃器・鈍器による自傷,入水,服毒など.
自殺の手段方法を問わない.
(3)他殺 
加害者に殺意があったか否かにかかわらず,他人によって加えられた傷害に起因する死亡すべてを含む.絞・扼頸、鼻口部の閉塞,刃器・鈍器による傷害,放火による焼死,毒殺など.加害の手段方法を問わない.
4)不慮の事故,自殺,他殺のいずれであるか死亡に至った原因が不詳の外因死
手段方法を問わない.
【2】外因による傷害の続発症、あるいは後遺障害による死亡
例)頭部外傷や眠剤中毒などに続発した気管支肺炎
  バラコート中毒に続発した間質性肺炎・肺線維症 
  外傷,中毒、熱傷に続発した敗血症・急性腎不全・多臓器不全
  破傷風、骨折に伴う脂肪塞栓症など
【3】上記【1】または【2】の疑いがあるもの
外因と死亡との間に少しでも因果関係の疑いのあるもの.
外因と死亡との因果関係が明らかでないもの.
【4】診療行為に関連した予期しない死亡、およびその疑いがあるもの
(1)注射・麻酔・手術・検査・分娩などあらゆる診療行為中,または診療行為の比較的直後における予期しない死亡.
(2)診療行為自体が関与している可能性のある死亡.
(3)診療行為中または比較的直後の急死で,死因が不明の場合.
(4)診療行為の過誤や過失の有無を問わない.
【5】死因が明らかでない死亡
(1)死体として発見された場合.
(2)一見健康に生活していたひとの予期しない急死.
(3)初診患者が,受診後ごく短時間で死因となる傷病が診断できないまま死亡した場合.
(4)医療機関への受診歴があっても,その疾病により死亡したとは診断できない場合.
(5)その他、死因が不明な場合.


 このように、異状死の解釈は法医学会、外科学会等でその解釈がまちまちです。 これをいかに客観的に扱うことが出来るかが課題となってきます。 明確な定義がないため実際にはしばしば異状死の届け出について混乱が生じているのが現状です。

 大野事件のような妊産婦死亡はどうすればいいでしょう。 外科学会の定義で行くと、妊婦の死亡は医学的説明が付けば届け出の必要はない。 もし犯罪性が疑われれば届ける。そうでなければ届けなくてよい。 対して法医学会の定義では、“注射・麻酔・手術・検査・分娩などあらゆる診療行為中,または診療行為の比較的直後における予期しない死亡”と明記されていますから分娩中、分娩直後に死亡したのは異状死の定義に入ります。 法医学会は妊婦死亡は全例届けろ。 外科学会は病死ということがはっきりしている場合は届ける必要はない。と言っています。 さてどうしましょう。 ここでどちらが正しいか議論するつもりはありません。 しかし、実際の問題として妊婦の死亡を24時間以内に届けなかったとして捜査、逮捕、拘留という事件が起こっているのが今の医学現場での大問題なのです。

医師法21条の矛盾 <その2>http://kasamatsu.sblo.jp/article/61610828.html
 医師法21条が、現代医療を規定するルールとして機能していない。
医師法21条の矛盾 <その1>http://kasamatsu.sblo.jp/article/61507398.html
 古き法律『医師法21条』の歴史と、時代に変化に対する矛盾。
posted by かさまつまさのり at 10:00| 日記

2013年01月21日

『軽減税率』その2〜控除対象外消費税〜

『軽減税率』その2〜控除対象外消費税〜

 昨日は、『軽減税率』その1 を書きましたが、医療現場でも大変な問題が起こっています。 『控除対象外消費税』です。

 医療機関が購入する機械や薬には消費税がかかります。 しかし、保険診療は非課税なので、医療機関が患者から受け取る料金には消費税を上乗せすることができません。 そのままだとこの差額分が病院の負担(損税)となってしまうのです。 最終消費者ではないにも関わらずです。

 厚生労働省は診療報酬にその分を上乗せしていると説明しています。 つまり、病院が仕入れに払った消費税に相当する金額を、診療報酬に盛り込んで病院の負担分と相殺できるようになっていると説明します。 診療報酬は数千項目もありますが、消費税分が上乗せされているとされる<厚生省が説明する>項目は、注射、検体検査、血液検査、義歯など、比較的仕入れとの対応がはっきりしている項目や疾患療養指導料、皮膚科特定疾患指導料などわずか数十項目。 これらの診療報酬に上乗せされている金額が、医療機関が負担している消費税総額と同額だとはとても考えにくい。

 そもそも、窓口負担は最大でも3割なので、診療報酬に上乗せされた金額を全て患者が負担するわけではありません。 また、消費税分を診療報酬に上乗せしているというならば、医療費を非課税にした意味が薄れています。

 現在非課税の医療費にも消費税を課税して、その税率を0%にすればこうした問題も解決できるのではないでしょうか<ゼロ税率>。 医療費の消費税をゼロ税率課税すると、医療機関の売上にかかる消費税は0%ですが、仕入れにかかる消費税額が仕入れ税額控除の対象になり、仕入れにかかった消費税額が税務署から還付されます。 現在は、非課税なので仕入れ税額控除の対象になりません。 そうなれば、患者が支払う薬代や診療報酬に消費税相当分が上乗せされることもなくなるのです。

 これから、消費税が8%、10%となれば、医療機関の利益はこの損税に消えていく運命にあります。早急に対策をとらないと、地域医療はさらなる崩壊へとつながっていきます。

 詳しくお知りになりたい方は、愛知県医師会理事加藤雅通先生がまとめた病院
「社会保険診療の損税について」〜控除対象外消費税〜
 http://kasamatsu.sakura.ne.jp/166.pdf
 を参照ください。
posted by かさまつまさのり at 20:02| 日記

2013年01月20日

『軽減税率』その1

『軽減税率』その1
 自公与党で軽減税率が検討されている。 特に公明党が強く主張しているようである。 『軽減税率』は消費税逆進性対策のひとつで、「生活必需品にかかる消費税負担を軽減するもの」である。 言葉で聞くと良いものに感じますが、現実に実行するとなるとさまざまな問題がでてくる。

(1)まず「なにが生活必需品か?」の定義が明確ではない。
 軽減税率対象となる生活必需品の線引きをしなければならないが、これがきわめて大変であろう。 "業界の政治力の強さ"が軽減税率となるかどうかの決め手となりかねない。 消費税導入前の個別間接税時代に、政治力の違いから 「コーヒーは課税だけれどもお茶は非課税」 というどうみても不公平な状態が存在したのは記憶に新しい。
 消費税導入時の趣旨は、「価値観の多様化した時代に、政府が個別にぜいたく品を決めてそれに課税するという考え方は合わないので、それに替えて価格(付加価値額)に応じて公平に税負担をしてもらう消費税にする」であったはずである。 『軽減税率』は、消費税導入時の趣旨を損ね、事実上の個別間接税の復活になりかねない。

(2)また、事業者が消費税を納めるにあたって仕入れ税額控除を行う際に、標準税率の品目と軽減税率の品目とを区別しなければならなくなりなり事務コストも増える。

(3)さらには、課税ベースが小さくなるので、消費税率を将来さらに引き上げる必要が出てくるのは確実である。 ヨーロッパで標準税率が高い一因には、軽減税率の存在もあることを忘れてはならない。 消費税1%=税収2兆5千億円の公式が崩れるのである<消費税1%が2兆円であったり、1兆5千億円であったり>。
 軽減税率で税収が減っても良いというならば、むしろ軽減税率をやめて税率を一律にもっと低くすることも可能ともいえる。 財務省の試算では、食料品全体に5%の軽減税率を適用すると、消費税10%で入るはずの税収を確保しようとすれば、その他の物品の消費税率を12.5%にしなければ税収は確保できないという。 消費税を10%にして食料品だけに5%の軽減税率を適用し、その分は税収が落ち込んでもよいというならば、軽減税率をやめて一律8.3%の消費税にすれば同じ税収を確保することができる。

 こうしたさまざまな問題を考えると、軽減税率は考え方としては好ましいかもしれませんが、現実には問題がきわめて大きいと考えます。 国会で慎重な議論をお願いしたい。
posted by かさまつまさのり at 12:54| 日記

2013年01月18日

医師法21条の矛盾 <その2>

医師法21条の矛盾 <その2>

 医師法21条の矛盾 <その1> の続きです。 医療関係の事例との関連を述べる。

 前編で記述した医師法21条も死体解剖保存法も、いま話題となっている医療関係の事例などは想定していない。 いずれも、疫病のような公衆衛生と、殺人のような犯罪を想定して設立された法律なのである。

 平成6年(1994年)、臓器移植法案に関連し、異状死体からの臓器移植の可能性が議論され、日本法医学会が『異状死ガイドライン』を作成した。 このガイドラインには、「異状死の解釈もかなり広義でなければならなくなっている」として、届け出るべき異状死に「診療行為に関連した予期しない死亡、およびその疑いがあるもの」を含めると書かれている。 ここに、医師法21条を拡大解釈して医療を対象とすることが明記されたのである。

 昭和24年、厚生省は ”医療は医師法21条の届け出対象ではない” という認識を示していた。 局長通知で 「死亡診断書は、診療中の患者が死亡した場合に交付されるもの」 「死体検案書は、診療中の患者以外の者が死亡した場合に、死後その死体を検案して交付されるもの」(医発385 医務局長通知)としていた。
 しかし、平成12年(2000年)厚生省はこの認識を覆す指示を出した。 国立病院部政策医療課の 「リスクマネージメントマニュアル作成指針」 において、「医療過誤によって死亡又は傷害が発生した場合又はその疑いがある場合には、施設長は、速やかに所轄警察署に届出を行う。」としたのである。 この厚生省の指導は、そもそもの医師法21条の概念と、次の2点で食い違っている。 @殺人のような犯罪を前提として捜査を行う警察に、厚生労働省が所管するはずの医療の事例を届け出るよう指導したこと A医師法21条では「医師」が届け出るとされているのに、「施設長」が届け出るとしたことである。 さらには、厚生労働省は、死亡診断書記入マニュアル に、「「異状」とは、「病理学的異状」でなく、「法医学的異状」を指します。「法医学的異状」については、日本法医学会が定めている「異状死ガイドライン」等も参考にして下さい。」と記載し、一学会のガイドラインに過ぎなかったはずの法医学会ガイドラインを、厚生労働省の指導としてしまったのである。

 これらを背景として、平成18年、福島県立大野病院の産婦人科医が、業務上過失致死罪及び医師法21条違反に問われ、逮捕された。 この事例では、院長「施設長」が届け出ないと判断し、産婦人科医「医師」はこれに従ったにも関わらず、産婦人科医が逮捕されたのである。

 医師法21条が、現代医療を規定するルールとして機能していないことは明らかである。
posted by かさまつまさのり at 23:00| 医療

2013年01月16日

医師法21条の矛盾 <その1>

医師法21条の矛盾 <その1>

 昔から矛盾を感じていた古き法律 『医師法21条』 について連載でまとめる。

 医師法21条とは、「医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。」という法律である。 平成18年福島県立大野病院の産婦人科医が、『業務上過失致死罪』及び『医師法21条』違反に問われ、逮捕されたことは記憶に新しい。 その際にも医師法21条について様々な議論が起こったが、法曹界および医学会の一部を巻き込んだのみで、国民的議論には発展しなかった。

 そもそもですが、医師法の起源はなんと”明治”です。がく〜(落胆した顔) 明治7年(1874年)に発布された医制(明治7年文部省達)に遡る。 当時警察は、内務省の組織であった。 内務省は、警察、衛生、労働、地方自治、土木など、幅広い分野を所管する巨大な組織であった。
 当時の衛生状態を推測するに、疫病・飢饉・殺人等による死体を道ばたに見かけることもおそらく珍しくなく、死亡診断書を書く医師に、疫病・飢饉・殺人等を示唆する「異状」がある死体を見つけた場合は、内務省に届け出る義務を課した。 当時としては、当然の法律であったであろう。 また、疫病・飢饉のような公衆衛生を担う官庁と、殺人のような犯罪の捜査を担う官庁が、内務省という巨大ではあるもののひとつの組織だったため、この届け出制度についても矛盾はなかった。

 しかし、昭和22年(1947年)、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の指令により内務省は解体される。 疫病・飢饉のような公衆衛生を担う厚生省と、殺人のような犯罪の捜査を担う警察が分かれてしまった。 しかし、医師法21条は改正されることはなく、異状死の届け出先は警察のままに放置された。
 また、GHQはいわゆる”行政解剖制度”を作った。 「都道府県知事は、その地域内における伝染病、中毒又は災害により死亡した疑のある死体その他死因の明らかでない死体について、その死因を明らかにするため監察医を置き、(中略)解剖させることができる。」(死体解剖保存法第8条)という監察医制度である。 つまり、殺人のような犯罪の捜査のために警察が刑事訴訟法に基づいて行う司法解剖と、疫病・飢饉のような公衆衛生目的で都道府県が監察医を置いて行う解剖(いわゆる行政解剖)が、我が国では明確に分かれた。 所管官庁も、警察と厚生省に分かれており、疫病・飢饉のような公衆衛生目的で異状死体を届け出る場合も、警察へ届け出るという医師法21条そのものが、矛盾をはらむこととなったのである。 そして、今だにそれか改定されていないのである。
<その2へ続く、、、予定>
   
posted by かさまつまさのり at 19:56| 医療

2011年11月23日

TPP内部文書

TPP内部文書

 政府が作成したTPP内部文書が、毎日新聞によって見事にスッパ抜かれています。 国家戦略室が作成したものの漏洩だと言われています。

 ◇政府のTPPに関する内部文書(要旨)毎日新聞

▽11月のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)で交渉参加表明すべき理由
・米国がAPECで政権浮揚につながる大きな成果を表明するのは難しい。日本が参加表明できれば、米国が最も評価するタイミング。これを逃すと米国が歓迎するタイミングがなくなる
・交渉参加時期を延ばせば、日本は原加盟国になれず、ルールづくりに参加できない。出来上がった協定に参加すると、原加盟国から徹底的な市場開放を要求される
・11月までに交渉参加を表明できなければ、交渉参加に関心なしとみなされ、重要情報の入手が困難になる
・韓国が近々TPP交渉に参加する可能性。先に交渉メンバーとなった韓国は日本の参加を認めない可能性すらある

▽11月に交渉参加を決断できない場合
・マスメディア、経済界はTPP交渉参加を提案。実現できなければ新聞の見出しは「新政権、やはり何も決断できず」という言葉が躍る可能性が極めて大きい。経済界の政権への失望感が高くなる
・政府の「食と農林漁業の再生実現会議」は事実上、TPP交渉参加を前提としている。見送れば外務、経済産業両省は農業再生に非協力になる
・EU(欧州連合)から足元を見られ、注文ばかり付けられる。中国にも高いレベルの自由化を要求できず、中韓FTA(自由貿易協定)だけ進む可能性もある

▽選挙との関係
・衆院解散がなければ13年夏まで国政選挙はない。大きな選挙がないタイミングで参加を表明できれば、交渉に参加しても劇的な影響は発生しない。交渉参加を延期すればするほど選挙が近づき、決断は下しにくくなる

▽落としどころ
・実際の交渉参加は12年3月以降。「交渉参加すべきでない」との結論に至れば、参加を取り消せば良い。(取り消しは民主)党が提言し、政府は「重く受け止める」とすべきだ
・参加表明の際には「TPP交渉の最大の受益者は農業」としっかり言うべきだ。交渉参加は農業強化策に政府が明確にコミットすることの表明。予算も付けていくことになる。


 皆様どのように感じますか? 
 政府は国民のために11月のAPECまでにTPPの結論を急いでいたのではなく、11月までに決めると米国の覚えがめでたいので急いでいたことになります。 『日本が参加表明できれば、米国が最も評価するタイミング。これを逃すと米国が歓迎するタイミングがなくなる。』 ここまではっきり政府内部文書で、「米大統領の成果」がTPP参加表明の目的とまで書かれてしまうと開いた口がふさがりません。 日本国の首相は、アメリカ合衆国”日本州知事”だったようですがく〜(落胆した顔)
 この内部文書はこうも書いています。 『衆院解散がなければ13年夏まで国政選挙はない。 大きな選挙がないタイミングで参加を表明できれば、交渉に参加しても劇的な影響は発生しない。 交渉参加を延期すればするほど選挙が近づき、決断は下しにくくなる。』 大きな選挙が13年夏までないので、今がやり時だ、ということでしょうか。 国民を馬鹿にしていますちっ(怒った顔)
posted by かさまつまさのり at 07:56| 政治